ちょっと失礼、という軽い一言の後に席を外したままなかなか戻らない光博士を待ち、この会議のために招集を受けた熱斗を始めとするクロスフュージョンメンバーはただただ暇を持て余していた。あてがわれた部屋、だだっ広い会議室に並べられた長机と人数分の椅子と大画面のモニター。大仰な機械がいくつか。その空間を出て自由に時間を潰すということも許されず、一人PETを覗き込む者、親しい者同士で固まっておしゃべりを楽しむ者などに分かれて銘々過ごしていた。

この日のために有給を取ったおかげで会議の途中も時々届いていた仕事のメールをとりあえずの暇つぶしとして片付けていた燃次は、ひと段落ついたところでふと誰かの気配に気づいて顔を上げた。てっきり誰もいないと思っていた、いやメールチェックをする前には確かに誰もいなかったはずの隣の席に女の子が座って、頬杖をついていた。その少女、確かチョイナから来たという、ジャスミンはどこかつまらなさそうに、唇を尖らせてどこかを見ていた。

「………」

何をするでもなく、ただ両足をぶらぶらさせている。まあ、退屈なんだろうなと思いながら視線を追うと、その先には楽しそうに話す熱斗とメイルの姿があった。

「嬢ちゃんは交ざらねえのかい」

子供は子供同士、仲良くしたいだろうと何気なく言った後で、そう言えばこの娘熱斗のことが好きだったなと思った。メイルと二人で熱斗を取り合うところを何度か見かけたことがある。取り合う、というか、いつもジャスミンと熱斗が話しているところにメイルが飛んできて引き離すといった具合ではあったが。

「うん。ワタシ、今はいい。そういう気分じゃないネ」

何を言ったか聞こえる距離でもないと思うのだが、ジャスミンの声に敏感に反応したメイルがこちらをキッと睨みつけ、熱斗の姿を隠すようににじり寄り、背を向けた。

「お?なんか大変だなー、けっこう…」

なんとなくこちらまで気まずい気分になり、燃次は鼻の頭をぽりぽりと掻いた。

「なにが?」
「いや、だから、アレ」

あからさまに熱斗にベタベタ絡み始めたメイルのほうを顎でしゃくって合図する。
基本的にそういうことにはさっぱり鈍い燃次が感づくのだからあの態度は相当のものなのだ。

「べつに?ワタシぜんぜん気にならないヨ。メイルちゃんいつもあんなカンジ。熱斗のことが好きだから、ワタシに熱斗取られるんじゃないかって思って怒るネ。いっつもそう。変な子ヨ」

ムスッとした顔とは裏腹に興味のなさそうなことを言う。しかもかなりの辛口で。

「おお…、嬢ちゃんもなかなか言うじゃねえか」
「自分に自信があったら、ワタシが熱斗となに話してたって無視すればいいヨ。メイルちゃん、熱斗が自分のこと好きか自信ない。だからいつも怒るネ。だったらもっと熱斗を振り向かせる努力するべき。熱斗じゃなくてワタシだけに怒るのも変な話ヨ、理解できないネ」

燃次にとってはあまり接点のない関係だったため特に気にしたこともなかったが、この娘、意外におしゃべりなところがあるらしい。見るからに幼い、可愛らしい顔でこれほど冷静に客観的に捉えているとは思わなかった。

「だけどあの二人、小さい頃からずっと一緒の幼馴染み。だからワタシ、すこし不利ネ。ワタシだって熱斗が好きだけど、知り合ったのすごく最近。悔しいけどメイルちゃんのほうがぜんぜん有利ネ」
「へえ?そんなもんかな」

少し辛口のトーンが落ちたところで、思わず口を挟んでしまった。
幼馴染とどうこうという方がむしろ珍しいような気がする。きょうだいのような感覚でしかないというなら話はわかるが、恋愛対象…か?
最近はこんなものなのだろうか。自分に置き換えて考えてみてもあり得ないように思えるし、周りでそんな手近なところで収まった知り合いもいない。

「…幼馴染みって、いいねえ。ずうっと仲良し」

ジャスミンがぽつりと呟いた。

「燃次サンも幼馴染みのお友達、いる?」
「えぇ…?」

急に話を振られて戸惑った燃次はPETを置き、腕を組んだ。幼馴染…

「そうだなあ。まあ、何人かいたけどよ」
「女の子も?」
「ああ、うん、まあな」

日が暮れるまで遊びまわって親にどやされた、遠い日々を思い返した。思いつくイタズラを片っ端から試したり、ひたすら走って迷うことも恐れずどこまで遠くへ行けるか競争したり、木の棒を得物に怪我をするほど戦ったり、そんなことをしてよく遊ぶ面子といったら確かに決まっていた。その中には女も、一人だけいた。

「どんな人だった?知りたいネ。おはなしして、燃次サン」

どんな人…。燃次は考え込んだ。
何故かわからないが隣から浴びせられるキラキラした視線を感じながら、うーむと一度唸った。

「そうだなあー」

名前は白泉たま子といい、最初は男友達が連れてきた、いわゆる友達の友達でしかなかった。それがすぐに打ち解けた。女であんなに気が合った奴は他にいなかったかもしれない。燃次はようやく口を開いた。

「一言で言やあ、まあー…、すげー気の強え女だったな」
「気が強い?」
「ああ、そうだ。女だてらに俺らの後付いて来るどころかいつも先頭きって無茶やってたよ。特にネットバトルなんかは滅法強くてよ、誰もあいつにゃ勝てなかったなあ」
「すごーい!燃次サンは?燃次サンも負けた?」
「俺か?俺は負けちゃいねえが、そういやあ、勝ったこともなかったかもな…相討ちばっかでよ」

燃次サンが勝てないなんてすごく強いんだねえ、かっこいいねえとジャスミンは目を輝かせた。

「燃次サンは、その人のこと好きだった?」
「はぁっ!?」

話の流れがよく読めていなかったかもしれない。そのことが聞きたかったのか、と燃次は慌てた。

「い、いやー…昔馴染みの特別なヤツって言やあそうだが、好きってえか…」
「燃次サンは、なんでその人と結婚してないの?しないの?」
「結婚ん!?そんなとんでもねえ、んなことあるわけ…!!」
「??」

驚き、目をぱちぱちさせるジャスミンを見下ろし、燃次は咳ばらいをして続けた。

「そのうー…、なんだ。そもそも、あいつは俺をそういう目では見ちゃいなかったよ。俺はあいつにバトルで勝ったことはねえ。あいつは年頃になった時分、自分より強い男じゃなきゃ付き合わねえって宣言してたからな」
「へえー…」
「もう何年も音沙汰ねえし、今何してるのかも知らねえんだ。ただ、何てえ話も聞かねえから、あいつも独りかもしれねえし、いいヤツが出来たかもしれねえな。けどまあ、全っ然わからねえなあ」
「いいヤツ?ってなあに?」

よくわからない、理解の追いつかない言葉にジャスミンは燃次を見上げて小首を傾げた。

「いいヤツ、っていうのは…いい人…そのう…つまり、好きな相手っつうか、付き合ってる相手っていうか…もしくは結婚相手か…」
「ああ!」

ジャスミンの真っ直ぐな視線に戸惑いながらも、何とか伝わった様子に安堵して燃次はふぅと一息ついた。惚れた腫れたの話を女の子に根掘り葉掘り聞かれるのは、少し苦手だ。

「でももしかしたら燃次サンとその人、ずっと一緒に過ごしてたら好き同士になってたかもしれないヨ。結婚だってしてたかも」

明らかに熱斗とメイルを意識した様子でジャスミンが唇を尖らせた。拗ねたようにも、寂しそうにも見える。

「嬢ちゃんは?幼馴染のダチはいねえのかい?」

痛くない腹だが、これ以上探られるのも妙な勘違いを呼びそうで話を変えてみる。

「ワタシ…の、幼馴染みのおともだちは」

ジャスミンは睫毛を伏せ、ふるふると震わせた。

「いたヨ。うん。とっても大切な女の子の友達、ひとり。…死んじゃったけど」

だけど今でもずうっと大事な友達ネ。これからもずっとそう。
意外な答えにポカンと口を開けた燃次に、ジャスミンは泣きそうな顔でニッコリと微笑んで見せた。

「あ、そ、そうかい、そりゃあ…」
「ワタシのナビ、メディは本当はその子のナビだったの」

もうこれ以上大切な人を亡くしたくない、だから薬剤師になろうと思った。ジャスミンは燃次にそう語った。ああ、そうなのか、と言ったきり言葉を詰まらせた燃次は視線をあちこちに泳がせた。相変わらず熱斗に貼りついたままのメイルがこちらの様子に気づき、べえっと舌を出したのが見えた。

「子供の頃からずーっと一緒にいられる関係って、いいね。普通だったらみんな、お母さんとか、あとお父さんだっておうちにいるんでしょう?ワタシにはじいちゃんがいるけど、父さんと母さんは写真でしか見たことないヨ。ワタシが赤ちゃんの頃に死んじゃったから」

こんなに小さな少女の身の上が、ほんの少しさわりを聞いただけでもう波乱に満ちている。それなのに頬杖をついた横顔に浮かぶ感情は純粋な憧れそのものなのだ。ごく普通の、当たり前とされる幸せを思い浮かべてうっとりとため息をついている。

「嬢ちゃん…」

燃次は言い淀んだ。大人として何か気の利いたことを言わなければならないのだが、何も思いつかない。光博士はまだ戻ってこないのだろうか?こんなことしか考えられない己が情けない。

「ねえ!燃次サンだったら、メイルちゃんとワタシどっち好き?」
「はっ!?」

ぱっと振り返ったジャスミンの顔は明るく、急に笑顔になっていた。
今日はジャスミンに何度も驚かされるが、これほど思いがけない質問は人生で初めてかもしれない。面食らった燃次は頬の筋が痛いほど引きつり、ろくに返事も出来ずにただただ固まってしまった。

「燃次サンは、メイルちゃんと結婚したい?ワタシと結婚したい?どっち?」
「はぁあっ!?」

矢継ぎ早に繰り出してくる。ジャスミンは青ざめた燃次の顔を覗き込み、唇を尖らせた。

「メイルちゃんのほうが…、カワイイ、かな。ワタシより」

伏せ気味の睫毛につんとした唇、拗ねている…ように見える。落ち込んだようにも。いつも薄桃色の頬が少しだけ赤く見えるのは気のせいだろうか?燃次は反射的に手を振った。

「いや!俺は!嬢ちゃんのほうが好きだ、可愛いさそりゃもちろん!結婚だって」

言ってしまってからハッとした。勢い任せに恐ろしくとんでもないことを言った気がする。いや言った。ジャスミンの瞳がぱあっと輝いたのがひたすらにむず痒く、しまったと悔やんだところでもう遅い。

「本当!?燃次サン、ほんとうに!?」
「い、いや」
「もう一回言って!燃次サンワタシそれもう一回聞きたいネ言って!お願い!」

腕を掴まれ、頭がぐわんぐわん揺れて目が回るほど揺さぶられて燃次は困り果て、何も言えずに珍しく誰でもいいから誰か助けてくれとただただ念じた。その願いが通じたのだろうか?唐突に少し離れた場所から槍のように鋭い甲高い声が降った。

「ねえっ!さっきからあなたたち、こっち見て笑ってるでしょ!!何喋ってるのよ!!」

ずかずかとこちらに向かって大股で近づいてくるメイル。その表情はさながら般若だ。違うなあ、思っていた助けとはだいぶ違う。燃次は動きを止めたジャスミンの手にそっと触れ、やんわりと引きはがした。
助かるどころか新しい厄介ごとに巻き込まれただけなのだった。

「いや、べ、別に俺たちゃ何も」
「嘘言わないで!わかるんだから!私と熱斗のことでしょう!?ねえ!あなた熱斗のこと好きだから私が熱斗と喋ってるの悔しくて私の悪口言ってるんでしょ!!」
「………」

ジャスミンはあからさまにムッとした顔でメイルを睨み返し、唇を引き結んだまま黙っている。

「そんな別に、悪口なんて、なあ!?」
「さっきからチラチラ見てくるの、ほんっと迷惑なの!私と熱斗の邪魔しないでくれる!?ねえ聞いてるの!?こんっなに人を怒らせてるんだから、謝れば!?謝って!!」

烈火のごとく怒り狂うメイルに、燃次だけが大きな体に似合わずオロオロと狼狽え何とかその場を取り繕おうと、何とか被害を最小限に抑えることはできないものかと。女の子の扱いは苦手だが、怒った女の子はもっと苦手だ。基本的にはどうすることもできないどころか、逆に火に油を注いでしまうのが燃次だ。

「ワタシ、あなたの悪口なんて言ってない。謝る必要ないから謝らないネ」

そんな不器用な男を庇うように、少しだけ身を乗り出してジャスミンが口を開いた。挑発するような口調には似つかわしくない、静かで低い声だった。

「ワタシ燃次サンと楽しくお喋りしてただけ。燃次サンは言ってくれたよ、ワタシが世界一可愛いって。メイルちゃんより燃次サンの幼馴染みの女の子より、ぜんぶの女の子の中でいちばん誰よりも可愛いって。ワタシ大人になったら燃次サンのお嫁さんになるヨ。メイルちゃん、ワタシが熱斗取るって心配してるネ?安心していいヨ、ワタシ熱斗のこと何とも思ってない。燃次サンと結婚するって決まってるネ。メイルちゃんこそワタシと燃次サンの邪魔してる。迷惑ネ」

一瞬固まった空気。燃次も、メイルも、目を丸くしてジャスミンを見つめた。

「おい嬢ちゃん!?んな話だっけか!?なぁ!?」
「なっ…ど、どういうことなのよそれ!?て、適当なこと言わないで…ていうか何その話!?ハァ!?説明してよ燃次さん!!」
「違ぇ!!お、俺はそんなこと言って…」
「うん、言ってないけどワタシ大人になったら燃次サンのお嫁さんになるヨ。今そう決めたヨ」

ギャーギャー騒ぐ三人に、熱斗を含めた他のメンバーもざわつき注目し始めた、その瞬間。

「お待たせしました、皆さん!えーとさっそくですけどどこまで話しましたっけ」

バタンという大きな物音につられて振り向くと、額に汗をにじませた光博士が苦笑いでドアを後ろ手に閉めるのが見えた。これこそ天の助け、本当に求めていた鶴の一声というものだ。助かったと内心胸を撫で下ろし、視線を落とすと、じっと心の奥を覗かれるような感情の読めない瞳でジャスミンが燃次を見上げていた。

「えーっと…資料で言うと確か5頁…でしたかね?熱斗、席に戻りなさい」

光博士に促され熱斗やメイル、その他席を立っていた者達が元の席に戻る音を聞きながら、燃次は懸命に手元の資料を繰るふりをした。ジャスミンはどうやらこのまま燃次の傍で光博士の説明を受けるつもりのようだ。

「今日いっしょにかえろ、燃次サン」

いたずらっぽい声で囁く、ジャスミンのほうを向くことができない。頭に血が昇ってうまく話せない。燃次は片手で口元を覆って微かに息を漏らした。おそらくひどい顔をしているだろうなと、そう思うと余計にジャスミンの顔を見れずにその艶やかな黒髪に視線を落とした。二つに分けて結われているその結び目をもしも解くことができたなら、きっと美しい黒髪が波打つようにはらはらと零れ落ちるはずだ。誰かの髪をこんなふうに、光に透き通る長い黒髪をどこかで見たことがある…ような気が…

「そうか、…あ、いや」

堪えきれず漏れた呟きに、ジャスミンが不思議そうに小首を傾げ燃次を見た。
少し吊り気味の目尻に黒い瞳。だがこんなに大きくはなかった、もっと小さくてその分キツイ印象の目。どことなく懐かしいような気はしていた、初めて会った瞬間から。

『お前、本当はもうとっくにアタイより強いだろ?』
『なのになんでバトルしねえんだよ、この意気地なし』
『もう二度とお前とは遊ばない。絶交だ!』
『何呆けっとしてんだよ。…追いかけてこいったら、馬鹿』

すっかり忘れていた声。耳に痛いほどによく通る、凛とした女の声だ。
何も恐れず、囚われず、縛られることなくずけずけと物を言う。
最後に会ったあの日の言葉。唐突に脳裏に蘇った言葉の意味が今わかった。あの頃は何もわかってなかった。とにかく何が何だかわからないままに、意気地なしの言葉だけが引っかかり、身に覚えのない罵りに腹を立て、喧嘩を売られたのだと思ってしまった。夏の日の真っ赤な夕暮れの中でほんの少し、ほんの少しだけ、たま子は泣いているように見えたのに。

女の子ってのは一体何を考えているのかさっぱりわからない。小さな子どもだった頃も、そして今も。多分俺が馬鹿だったからだろう。だがそれも仕方がない、今だって同じくらいの馬鹿なのだから。
燃次は俯き、頬杖をついた。光博士の資料をめくるように促す声が聞こえるが、手元がどうにもおぼつかない。

「燃次サン、ここヨ。こっち」
「あ、ああ。ありがとな」

2ページほどの遅れを指摘する細い指が、そのまま資料の上を這ってきて軍手の指先に触れた。驚いてジャスミンのほうを見ると、その目の縁がきらりと光ったような気がした。ぐす、と鼻をすする音も。

「嬢ちゃん…」

馬鹿だから、馬鹿すぎてもう何も理解できる気がしない。
燃次はもう一度礼を言いかけて、やめた。女の子の本音が一体どこにあるのかわからなかった。ジャスミンは本当に熱斗のことを忘れられるのか?そんなわけはない。

あの頃は知る由もなかったが、たま子は多分俺を好いていた。悪態をついて背を向けるのでなく、追いかければよかったのか?そうすれば今もあいつは俺の隣にいたのだろうか。わからない。何も。

少し疎ましく思っていた。たま子が当たり前のようにグループの中心にいようとすることに。初めは楽しかった、それは本当のことで毎日一緒にいることが当然だったしそれでよかった。だが何年も経てば感情も変化する。あの頃にはもう何も考えず無邪気に、性別の関係なく遊びたいとは思えなくなっていた。丁度今の熱斗やメイル、ジャスミンくらいの年の頃のことだ。たま子がいくらネットバトルが強くとも、それまでのように当たり前に過ごすことは難しくなっていた。たま子が何を言いたいのかよくわからないことも多々あったし、はっきりとはわからないが何かが違うと感じるようになっていた。その違和感の正体に気づいたのが、20年も経った今というのも皮肉な話だが…。

女というものは、今目の前にいる女の子達のように、それなりの年齢にもなればもう、頭の中はこちらが思いもよらないことでパンパンに膨れ上がっているのだ。
恋愛、とか、そんなようなことで。

「燃次サン」

光博士の説明もろくに頭に入らず、ぼんやりしていると小さな声で名前を呼ばれ、ずっと触れられていた人差し指をきゅっと掴まれた。それからまた本当に小さい、涙まじりの囁きが鼓膜に刺さった。

「ゴメンナサイ」
「………」

とりあえず今日は一緒に帰る…のか?
やっぱり全然わからない。









- end -









2021/10/1